今回インタビューさせていただいたのは、数年前に都内に保育園を開業し、2019年に会社を譲渡された井上愛美さん。井上さんは、一橋大学法学部卒業後、新卒で外資系コンサルティング会社に勤務。大手インターネット事業会社に転職後、Cheer plus株式会社を創業。都内でのプリスクール一体型保育園サニーキッズインターナショナルアカデミーを運営。事業を成長させてきましたが、事業が軌道に乗り出した2019年のタイミングで上場企業への譲渡を決めました。 軌道に乗り出し、ここからというタイミングの譲渡の決断。井上さんのなかで、今後展開したいイメージは多々あったようですが、譲渡という決断の背景には、人手やマネジメントという現実的な悩みから、事業を成長させるうえでの個人的な限界など、葛藤があったようです。事業の成長を考え、譲渡を決めるに至った背景とプロセスについて伺いました。
Project Story都内保育園 株式譲渡までのストーリー
事業成長と個人の限界
まずは創業からの経緯を教えてください
井上会社自体は2015年に登記をしています。そこから保育園のコンサル等を行いながら、自宅で教室を始めた、というのが事業のスタートですね。
2016年4月から自宅で教室を開始し、2016年10月に塾の間借りでプリスクールを開始しました。が、2016年の年末に間借りしていた塾が廃業するという話になったので、2017年から同じ場所を自社で借りてプリスクール一体型保育園としてリノベーションしました。この時は1~2歳児が対象でしたが、2017年4月からは5歳児まで対象のアフタースクールも開業しました。
自宅教室、プリスクール、保育園、アフタースクールと徐々に事業内容は増やしていきました。
カリキュラムもご自身で作られていますが、そのこだわりや方針はどのようなものになるのでしょうか?
井上そうですね。教育に関しては自分で学びながら、独自でカリキュラムを作りました。こだわりとしては、内容がエビデンスに基づいたものであるということ、子どもたちが集中できる時間内で楽しく取り組めること、を大切にしています。そして、子どもたちが自分で試行錯誤ができる、学ぶことを楽しいと思える、失敗してもチャレンジができる、という人に育ってほしいな、と思って作っています。
最初は勉強した内容をそのままレッスンでやっていましたが、子どもたちの反応を見ながらより明るく楽しみながらできる自社流にしていきました。充実した内容になった自信はあります。
お客様からも支持を得て、創業してから短期でありながら、経営的には順調のように見えます。なぜ譲渡を考えることになったのでしょうか?
井上2019年に入ってから本格的に考えて動き始めたのですが、簡単にいうと、マネジメント1名体制でやることの難しさや限界を感じたから、ということになります。
そして、その中でも理由の一番大きな部分は、自身が一人でマネジメントをしている体制下で短期的・長期的双方の観点で従業員によい環境を提供できているのか自信がなくなったからですね。
採用から、教育、日々のマネジメントまで、自分がやるわけですが、事業が拡大するにつれて、人が増えていくと、当然そこにかかる負荷も大きくなり、私自身がやりきれなくなっていました。
「事業のため」の選択
業界的にも人手不足ですし、入口の採用そのもののハードルが上がっています
井上実際、人を1人確保するのに、非常にコストも時間もかかるようになっていました。また、園によって理念もやり方も異なるので経験者が雇えればうまくいくというわけでもありませんでした。
入社前・直後から園の中心スタッフになってもらってからも、幼児教育という一般的に画一のカリキュラムややり方のないことが事業内容なので、従業員とは時間をかけて目線合わせをしっかりする必要がありました。
人の採用やマネジメントの負荷がかかるというのは、経営上当然ですがそこにかかりっきりになってしまった。かつ、それでもまったく十分ではありませんでした。
一方で、独自のカリキュラムを作るという開発の部分ももっと取り組まないといけないし、それをどう広げていくかというマーケティングの部分も、本来はもっともっとやらないといけないし、やりたいのに、追い付かない。
結局、日々のトラブルやマネジメントに忙殺され、進めたいことが進められなかった。個人でモタついている現実をみたときに、「事業のため」「園のため」ということを考えると、これでよいのか?と。自分が大事にしたいお客様、従業員、園自体を大切に、幸せにできていない。時間をかけられていない。
現状を変えるためには、経営・マネジメント体制を抜本的に変える必要があると思いました。
最初は、誰か個人に経営を任せる、ということや、園長を任せる、ということも考えましたが、結局個人だとその人個人の資質に依存しますし、その方が退職したらまた元の状態に戻ってしまうので根本的なところの解消にもならないな、と思って。
最終的にはノウハウ、仕組みもあって、人がいる大手の企業に任せたほうが園はよくなるのではないかという結論にいきつきました。
最終的に、譲渡をしましたが、結果的にはどのようにお考えですか?
井上譲渡先は、上場している大きな会社ですが、自分たちの想いもすごく汲み取ってくださいましたし、お客様も従業員も大切に考えていただきました。また、園にとって最適な体制も早期に整えていただきました。
従業員も大手企業の傘下になるということで、安心した声も多かったですし、お客様の納得感も高くスムーズに受け入れていただけたと思います。
そういう意味では、自分が始めた事業ではありますが、今後を考えたときには、事業にとって、園にとって良い選択だったと思います。
今後もこのような形でサニーキッズが継続することは本当にありがたいですし、自分ではやりきれなかった事業の成長をみることが楽しみです。
第三者承継(売却譲渡)をしようと考えてから、どう行動しましたか?
井上まずは希望する譲渡先企業のイメージを固めました。サニーキッズ運営はレッスン・保育・外国人雇用など多くの要素があります。譲渡後にスムーズに安定した運営をしていただくために、知育、認可・認証保育園運営とプリスクール、外国人雇用のナレッジがあり、そして資本力がある会社・お客様とスタッフが安心する意味で名前が通っているような会社がいいと考えました。
次に情報収集のために、M&Aや事業承継をサポートする会社を調べ数社に連絡を取りました。一社目は保育園の売却サポート経験が豊富な小規模の会社です。お会いした途端「申し込む場合はこちらの書類にサインして」と、作業というか多数案件の一つとして取り扱われる印象を受けました。二社目は大手の会社です。初回面談には三名がスーツでいらっしゃいました。名刺交換、ご挨拶から、パンフレットでのサービス説明、情報ヒアリングまでスマートな印象を受けましたが、「社長は大手企業への売却を希望されているが、一店舗では難しい。せめて三店舗以上やっていないと。」「社長が業務にかなり入っているので、経営引継ぎ後の心配をされると思う」など、私の会社の売却の難しさを指摘されました。
M&Aサポートの会社に問い合わせるのと同時に、譲渡先企業も自分で探していました。起業した会社は自分の子どものようなものなので、できれば私が内容をよく知って安心してお任せできる企業に譲渡したかったからです。以前から経営の相談に乗ってもらっていた先輩がいる大手英語保育園A社に直接連絡を取ったところ、興味を持っていただき交渉を開始することができました。M&Aサポートの会社に問い合わせはしたものの、必要に応じて弁護士や税理士の力を借りながら基本は自力で進められる気がこの時はしました。なので、まずは一人でA社との交渉を始めました。
A社の方々の対応は親切で紳士的で順調に進んでいました。しかし、A社は事業買収の経験が豊富で、専門家チームで打合せに来られます。それに対して、こちらは無知な素人の私一人。提示価格や提示条件、譲渡後の運営の話が出てきたあたりで少し不安が生まれてきました。この条件は一般的に正しいのか、いろいろな面で交渉余地あるのか、譲渡後の運営についてどこまでお願いしていいのかなど。様々な不安や迷いが押し寄せてきたのです。
途中から、事業承継通信社のサポートを受ける形に変わりましたね。
井上はい、そのような中、知人だった若村さん(事業承継通信社)にご相談したら駆けつけてくれました。 これまでの起業から経営上の悩んできたこと、不安や迷い、体調面など、じっくり耳を傾けて受け止めてくれました。
私は事業譲渡にプロのサポートが必要だと感じ始めていましたが、事業承継通信社様が当時創業したてだったこと、途中まで自身で進めているにもかかわらず一律の料金体系が依頼のネックでした。若村さんは私の心配要素を取り除く形でサポートの提案をしてくださりました。
- プリスクールの売却サポート経験がある優秀なパートナー(M&Aコンサルティングの依田氏)にも声をかけ、プロジェクトチームを組みサポートする
- A社への直接交渉に関して、セカンドオピニオンでサポートする
- 万が一A社がうまくいかなかった時に備え、条件に合う他のB社、C社などの譲渡先探しも同時に進める
なので、事業承継通信社様のプロジェクトチームにサポートを依頼することに決めました。
そこからは本当にスムーズでした。ずっと一人で不安や疑問を抱えやってきたことが、こまめに相談できアドバイスをもらえることで気持ちが楽になり、A社との交渉も順調に進みました。A社との交渉は、最終局面で、A社側の人事的事情で破談してしまいました。しかし、その時に備えてプロジェクトチームが交渉しておいてくれた上場企業である会社さんが積極的になってくださいました。なので、破談で特に落ち込むこともなく気持ちを切り替えて進めることができました。そのあとデューデリなどいくつかのステップを踏み、譲渡契約に至りました。
契約日に契約書に押印するタイミングまで、覆ったらどうしようかと不安でした。引継ぎ先の企業様、プロジェクトメンバーの皆様に囲まれて捺印した瞬間、自然に涙が溢れ止まらなくなりました。その帰り道、プロジェクトメンバーの皆様とお昼を一緒に食べ、初めて、ほっとしたことを覚えています。
一連の会社譲渡のプロセス、今振り返っていかがでしょうか?
井上みんなで話し合いながら、そして都度、軌道修正もしていきながら、結果として一番良い譲渡先を選ぶことができ、とても納得感がある事業譲渡でした。書類や手続きのアドバイスも的確で、私が言語化できていない悩みにも気づいてアドバイスをくださったり、悩んでいる時に電話をかけてきてくれたり。このチーム(事業承継通信社の若村・柳とM&Aコンサルティング 依田氏)は、人柄の良さ、スピーディーさ、的確なアドバイスを兼ね揃えていました。とても親身で安心して進めることができました。
会社譲渡って、さぞ大変だったでしょうと言われます。でも、支えていただいていたので実はそうでもなくて。プロジェクトチームの皆さんのおかげです。とても感謝しています。
インタビュー・執筆:株式会社事業承継通信社 若村雄介・ 柳 隆之
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